チャンバラ剣道ブログ

なまくら刀で一刀両断。斬られるのは世の中かこの俺か。

「盤上の向日葵」読了 ちょっと重かった、、

一気読みしたい内容だったけど時間がなく通勤時間に数日かけて読んだ。いやはや面白かった。将棋の描写がまるで剣術武闘ものの話のように、スリリングだった。こんなに深い将棋というものを知らないのは損だと思い、将棋の本まで買ってしまった。今ユーチューブとかで将棋の解説なども見ている。藤井くんが連戦連勝で湧いたが、彼の何がすごいかを、正しく理解している人は多分少ないのではないだろうか?

さて、本作に戻るが、じわじわと犯人に捜査が近づいて行く全体の構成は秀逸。焦らし過ぎず、端折りすぎず。かつ小さなエピソードごとに楽しませてくれる。ラストに向かい、時間軸が重なり合ったころには、読者はあまりに残酷な運命を背負った各登場人物全ての立場と思いを理解できている。誰が悪い訳でもない、皮肉な運命に、共感するしかない。誰もが不幸でやや救いのない終わりだが、人間の業というものをしっかり描いていた。

少し注文をつけるなら、お母さんの逃避行先が同じ味噌業界ってのもなんだか足がつきそうでやや腑に落ちないし、上条が大学入学からの数年でまるで違う人間みたいになっていたのも、やや急すぎる感じがした。全体的に前半、中盤似ページを割きすぎて、後半、ラストがやや駆け足だったかな。途中で犯人像はおおよそ絞られるので、ラストはもう少しひねったほうが良かったかもしれない。中盤で予想された、ほぼその通りの終わり方だったので、若干肩透かしを食らったところはあるかな。

でもそういうハリウッド的なエンタメ性をこの作品に求めるのは違うのかもしれない。全体として人間の描き方が本当によくできていて、それだけで十分楽しめたからだ。帯のアオリもちょっと考えものだ。